water flow

tapio2008-04-05

会議、出張、旅、打ち合わせ、久しぶりの友人との酒、遠い記憶、雨音の深い森、きつい坂道、新年度のオリエンテーション、祖母の入院による短い帰省。
この春は、激流を下っているような上っているような。
お見舞いで長崎へ帰る列車。指定席の同じ車両は、英語を話すツアー客で満杯。ああ、これはえらいことになってしまった、本も読めやしない、と思っていたら、あれれ、懐かしいアクセント。
まるで、Flying Scotsman(London, Kings CrossからEdinburghに向かうNorth Sea沿いを走る列車)のよう。ここでは左側に有明海の大切な干潟が見える。
白髪の上品なお婆さんが、頑固そうなじいさんに、「あなた、どこにいってたの、みんな探してたのよ」と叱りつけている。
ああ、これはたぶんロンドン近郊の。
「・・・・・」
じいさんは、黙秘。G13の如し。
そして、途中の海沿いの駅名「YUE(湯江)」とはなんだということから始まって、その白髪のおばあさんと話すことに。
聞けば、お婆さんにさっき叱られていたじいさんは、ケンブリッジ大の化学の教授で、今は、ロンドン大のキングス・カレッジで教えているとのこと。暫く、長崎での祈りのこと、仕事の話や大学のこと、研究のこと、それにしても、東京でも京都でも日本はアメリカ英語ばっかりだったわ、あなたは珍しいわね、・・・でもここは日本だから本来、日本語ですよ、ここから英国は遠いですから・・・、あなた、もうすぐドイツだったら、ああ、彼は、ヴィエナ・シュニツェルが大好きよ、ええ、確かにあれは、美味しいですよね、果ては、お婆さんから、英国らしくケイパビリティ・ブラウンの話しを聞いて、黙秘じいさんの優しい笑顔とともに名刺をいただく。
「日本は、はじめてなのですか?」「ええ、そうよ」
「私たち、とてもラッキーだわ」「どうして?」
「ほんとうにいろんな色の花が咲いているの」「特にさくらの花」「ほんとうに美しいわ!」
「ああ、そうですね。確かに、今年のさくらは、気候のせいかな、いや、もしかすると、きもちのせいかな、僕もとても綺麗だと思います」
LondonのJubilee line、Kilburnという駅のそばに20年前にいたことを話した。
「驚いたわ。そのすぐ近所にわたしたちの家があるのよ」「ロンドンにくることがあったら、ここに電話番号があるから、是非、寄ってね」
Swiss cottage, West Hampsted、ああ、懐かしい駅名。
なんだか不思議な気がした。つい1週間前に、僕がいたKilburnの下宿のおばさんが亡くなったことを、ご家族からのメイルで受け取って、悲しくもいろんな事を思い出しながら弔電を送ったところだったから。とても素敵な本をいただいたり、英語を教えてもらったり、本当にお世話になった方。20年前の話。彼女も、化学のPh.Dだった。
「楽しかったわ」「僕もです、ほんとにありがとう、楽しい旅になるといいですね」「さようなら」「さようなら」
そして、なんとなく後ろ髪をひかれるように、UrakamiというNagasakiの1つ前の駅で降りた。
今年のさくらの花は、切ないくらい、ほんとうに美しく咲いてる。